18 言語道断の頑固職人、ロン・ベルク

 

 魔界最高の伝説の名工、ロン・ベルク。
 彼の作った武器、防具は自らの意思を持ち、自己修復機能までついているスグレモノ。彼の作品や名前は早くから出ていたものの、彼自身の登場は遅い。

 魔族でありながら、なぜかド田舎のランカークス村付近の森の奥に住み着いているロン・ベルクは、ダイ達と出会った頃はすでに武器の使い手達に失望して武器作りを止めた状態だった。冷めた性格で魔族や人間の戦いにもほとんど興味を持たず世捨て人のように暮らしているが、武器にかけての思いや情熱は並のものではない。

 むしろ武器造りにすべての情熱をかけているからこそ、失望感を感じ人間の世界の片隅にひっそりと暮らすようになったのだろう。

 人間嫌いで家に人間が寄り付くのも嫌がるような男だが、変わり者同士は気が合うのか、ロン・ベルクはなぜかポップの父ジャンクを気に入り、友人付き合いをしている。
 もともとダイ達がロン・ベルクに会えたのも、ジャンクの紹介によってかろうじて話を聞いてもらえたような状態だった。

 かなり気難しい男で最初はまったく剣を作る気がなかったのだが、ダイの潜在能力を知った途端に躍り上がらんばかりに喜び、最強の武器を作る気になった。
 彼の興味の対象は強力な武器を作ることと、その武器がどれだけに威力を発揮するか……ただそれだけのようだ。

 だからこそかつて魔界にいた頃、魔王バーンの依頼のままに武器を作り、その後バーンの軍団に誘われたのにもかかわらず『自由』を選んだ。


 彼の顔の傷はバーンに逆らったおとしまえとして、ミストバーンにつけられたものだ。
 バーン、そしてダイ達の両方に武器を作りながら、心情的にはどちらにも肩入れしていない。
 彼自身魔族なのにあまり同族には思い入れがないらしく、長い人生を無為に生きている魔族をけなすような発言をしたことがある。

 そういう彼も275歳……人間にしてみればすっごく長生きしているのだが。
 かなりの酒好きで瓶を片手にグイグイやっている姿が何度か見られるが、それでいて少しも酔っている風ではない。

 相当酒に強いらしい。
 また、礼儀や遠慮というもの知らぬ無愛想な男で、大魔王バーンにしろフローラ達にしろ少しも敬意を払っていない。どんな場所にせよ、自分の思うがままに生きると言うのが彼の行動基準のようだ。

 ダイとその剣にしか興味がなさそうな男だったが、なんと最終戦を前にしてダイ一行全員文の武器を造り上げてわざわざ隠し砦に届けにきている。
 しかも人間達の戦いが無謀だと言いながら、弱い方についた方がおもしろいからと言う理由で一応ダイ達の側につき、最後の決戦で人間達と共に戦っている。

 彼の達人の域まで達した剣の腕があったからこそ、ダイ達はその場にいた最大の敵ミストバーンに邪魔されることなく大破邪呪文を完成できた。

 気紛れで、何を考えているのか分からない男――そんな彼の秘密が説き明かされたのは、最終戦近くだ。
 とても適わない相手に命懸けで戦うノヴァに心を動かされ、ロン・ベルクは自ら秘めていた実力を発揮する。

 実はロン・ベルクは、一撃でどんな敵でも滅ぼせるほどの剛剣の使い手だった。
 その力を持ってすれば大魔王バーンにさえ匹敵する程の……だが、それは凄まじいまでの攻撃力のため、振るったが最後ロン・ベルクの腕ごと破壊してしまうほどの物だった。


 一度、自らの剣の威力により腕を壊してしまったロン・ベルクは、自分が存分に力を発揮できるような剣を鍛えることに執心した。
 つまり、本来は自分自身をサポートするために、強力な武器を作るのを目的としていたのだ。

 …………徹頭徹尾、自分自身にしか関心のない男である。
 だが、ひ弱な人間達の頑張りを見て、彼もまた心を動かした。
 ノヴァや人間達を助けるため、自分の腕が壊れるのを覚悟の上で地上に残された強敵を倒したシーンは彼の最大の見せ場だ。
 
 

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