21 お騒がせの大勇者! アバン、リターン!!

  

 『彼』の死は早かった。
 なにせ、連載7話であっさりと死んでしまったのだから。

 彼を心から慕っていた弟子達はその後、何かと言うと彼を思い出し生前の彼の言葉を支えとしながらそれぞれが努力して修行を重ね、偶然のように出会った兄弟弟子同士で団結が生まれた。

 結果、先生の志を継いで世界を救うために大魔王と戦っていくというのがダイ達の旅の流れであり、大きなテーマでもある。

 ことあるごとに、在りし日の師の教えを励みに頑張ってきたアバンの使徒達……人類の命運を一心に背負い、最後の決戦のつもりで乗り込んだバーンパレス。
 その際、敵の仕掛けた卑劣な罠にダイが引っ掛かってしまった!

 それを助けようとしたポップのお陰でダイこそは助かったものの、ポップはそのまま罠に中に取り残され、絶体絶命!

 ――と言う一行で最大最高の危機の瞬間に何事もなかったかのように、ごく当たり前の調子で再登場してきたのがあのアバンだったのだから、登場人物だけでなく読者も仰天である。

 なんと、2巻で死亡したキャラクターが28巻で大復活とはっ!(笑)

 驚きのあまりなかなかアバンの存在を信じられなかった弟子達も彼が紛れもない本物と知り、喜びはしたものの――彼が自分の死を伏せたまま別行動していたことには大いに不満があったようだ。

 だが、アバンにしても、弟子達を悲しませたり騙したのは本意ではない。
 彼は自己犠牲呪文の時、本当に死を覚悟していた。

 それを救ったのは、かつてフローラからもらった『カールの守り』という国宝級アイテムのおかげ。
 その効果は、一度だけ持ち主の死の身代わりになり、砕け散るといもの。

 アバンが意識を取り戻した時は、ちょうどダイとポップが二人で小船で旅立とうとしているところだった。
 むろん、そこで二人を呼び止め、自分が生きていることを教えるのは簡単だった。

 だが、魔王ハドラーが復活し、しかもより強大な大魔王が存在すると分かった以上、より強い勇者が必要なことがアバンにはこの時にすでに分かっていた。今度、世界を救う勇者は自分ではなく、ダイであるだろうと言う確信も。

 弟子達が自分に甘える事なく逞しく育ってくれるように、そして、来たるべき戦いに備えて自分自身を鍛え直すためにアバンはあえて別行動を選んだ。
 彼が選んだのは、カール王国にある破邪の洞窟にひたすら潜り、さらなる力を得る道。
 脱出呪文が使えないこの洞窟で、アバンはなんと、単独で150階という記録を打ち立てている。

 ………しかし、偶然レオナ達が破邪の洞窟に入って邪気を打ち払う呪文をかけたから脱出呪文が使用可能になった上、最後の決戦に間に合ったものの、下手したらこれは世界の情勢も知らないまま終りかねない修行法である。

 潜るだけで3ヶ月もかかった洞窟から普通に出てきたら同じ日数がかかるのに……。もし、ダイ達と合流できなかったらどうするつもりだったのか。

 しかも、それだけの修行をした割には、この時のアバンは戦力的の強さはダイに遥かに及ばない。

 まあ、それもそのはず、主に邪悪な呪法を打ち破る能力を伸ばしたアバンは、最初からダイ達のサポートをすることを目的にやってきたのだ。
 師として皆を導くためではなく、勇者一行の一員として、仲間として戦うために――。
 ポップやダイを狙う陰湿な敵キルバーンを倒すのに専念したアバンは、レオナに勇者一行の指揮を、ポップに勇者の力を最大に引き出す参謀役を、そしてダイに――大魔王を倒す勇者の役を任せた。

 弟子を育てるだけでなく、弟子が自分を越えた事実を素直に認め、それを心から喜ぶことができるアバンはやはり最高の教師というべきだろう。
 …………ものすごく、人騒がせな男ではあったけど(笑)

 

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