『四界の楔 ー杜門編 4ー』 彼方様作 |
「余がやろうとしている事が、世界に拒絶されたと言ったな。魔界は永遠に不毛な暗黒の地でいろと言うのか」 「同じ理屈を返すぜ。魔界の為に地上は存在すら許されないのか」 ポップを中心に、輝く黄金の光が溢れる。 「封印など、術者が死ねばいずれ解ける」 結局は同じ事だとバーンが嘲笑う。 「これが、ただの封印じゃないんだな」 「何」 「封印されている間、あんたは魔力を削られ、体力を削られ、生命力を削られる。さあ、生きて出られるかな」 封“滅”印。 「少なくとも、今と同じ状態は保っていられないし…その頃にはヴェルザーの封印もどうなっている事やら」 「貴様…!」 それにバーンが楔の寿命について知っているとも思えない。 「何より、あんたのやろうとしてる事は世界から拒絶されたんだ。たとえ竜の騎士や楔がいなくても、必ず反作用は起きる」 何がどうなろうと、あんたの野望が達せられる事はない。 「魔界は―――変わる」 そんなバーンの憤りを知ってか知らずか、ポップの言葉が静かに落ちた。 「変わる?」 「ああ。時間はかかるけどな」 「何故そんな事が言える」 「理論を構築したのが俺だから」 アバン、レオナ、マァムが反応する。 「理論だけで何が出来る!」 「実行する奴がいるに決まってるだろ」 それが、ヴェルザー。 「―――何故だ」 「あ?」 「何をもってすれば、そんな短い時間で、そこまでの事がなせる」 「時間が限られているからこそ、出来る事もある」 悠久ともいえる時を持っていたあんたには、解らない事だろうけどな。 “ああ、俺の都合だよ” 地上と魔界。 “俺はその為に生きてきた” ポップはバーンを見据えた。 “それこそ傲慢な言い方だけど、あんたには感謝もしてる” この戦いがあったからこそ、ダイを始めとした仲間達と出会えて、絆を結ぶ事が出来た。 「さあ、お喋りはここまでだ」 淡々と告げる。 「封滅印―――結(ゆい)」 言葉と共に、バーンへ向けて勢いよく右手が振り下ろされた。 「ポップ!」 そのまま、前のめりに倒れそうになったポップへ、いち早くダイが駆け寄る。だが、ポップを抱きとめたのはダイではなかった。 「はい、そこまで」 完全に意識を失っているポップを抱き上げたのは、長身の、全身を黒で包んだ男。 「……誰だ」 ダイが低い声で問う。 「貴方が、キルヒースですか」 「そう。直接会うのは初めてだネ。大勇者・アバン君。秘女の心を守り、支えてくれた事。守護者の一人として感謝するヨ」 「それはいいんですけどね」 「―――残念だケド…もうタイム・アップだ」 冷淡ではない。 「ポップはどの位眠る事になります?」 「こちらの見立てでは、凡そ千年」 「せ…っ」 その余りの長さに、事情を知るメンバーが絶句する。 「その辺の事は、こっちでも考えてるからサ。君達がどうこう出来る事じゃないんだから気にしない方がいい。秘女だって、それで君達が思い悩むのなんて望んでないんだから」 「それは…」 確かにそうだろうとは思う。 「それとバーンが落とした黒の核晶。あれはこっちで回収するから、心配しなくていいヨ」 「どうして」 「ん?」 最初よりも更に低い声でのダイの問いかけに、キルヒースは軽く返した。 「そう言われてもネェ。不可侵な部分があるんだヨ」 これ見よがしに、ピクリとも動かないポップを抱き直す。 「とにかく、ここから先は君達が手出し出来る領域じゃない」 先程とは違い、バッサリと切り捨てる言葉。 「…一つ、いいかしら?」 今度はレオナが割って入る。 「ポップ君は魔界の在り方を変えると言っていた。それに、貴方達は関わっているの?」 これは質問と言うより、確認に近い。 「流石、と言っておくヨ」 これ以上の質問を拒むような答えだが、レオナは怯まない。 「黒の核晶を利用する?」 「何故?」 「わざわざ回収すると言った事。ポップ君に免じて、こちらを安心させる為?でも、バーンが使う、地上を破壊するだけの威力のある爆弾なんて、魔界でだって扱いは難しい筈。それをただ、こちらの安心・安全なんてものの為に回収する必要があるのかしら」 感情的になりそうになるのをどうにか押しとどめながら、なるべく淡々と言葉を綴る。 「秘女以外に、こんなに頭の回る女の子がいるとはネ」 別に説明する必要などない事だ。 「バーンが求めたのは、太陽」 「ええ」 「そして黒の核晶は、膨大なエネルギーの塊りともいえる」 「―――まさ、か…」 反応したのはレオナの他に、アバンとブロキーナ。それにキルヒースは更に言葉を続けた。 「そのエネルギーを一気に開放するから、大爆発を引き起こす。なら、それを少しずつ引き出して、コントロールする事が出来たら?」 「太陽の代わりにしようというの!?」 「そういう事。その理論を、10歳から14歳の間に構築するんだから、言葉もないヨネ」 それもそうだが、発想も突き抜けている。 「魔界が豊かになれば、バーンのような考えを持つ者もいなくなるだろうし、時の流れと共に弱肉強食の考え方も薄れて行く筈」 完全にはなくならなくても。 「ポップ君…」 レオナは圧倒されるしかなかった。 |
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